2012年11月18日

花の詩女ゴティックメード

〈2012年映画感想2本目〉
花の詩女ゴティックメード
GOTHICMADE
2012年 日本 70分
監督:永野護
脚本:永野護
配給:角川書店
声の出演:川村万梨阿,佐々木望,大谷育江,折笠愛,大塚明夫,幸田夏穂,小林由美子,三石琴乃,三木眞一郎,榊原良子

 『ファイブスター物語』の永野護が監督・脚本・原作・原画などを担当したアニメーション映画です。最初の発表が2006年だった筈なので実に完成までに6年を要した作品ということになります。その間は『ファイブスター物語』の単行本刊行も中断されていただけに待ち遠しいものがありました。ちなみに角川書店65周年の記念映画でもあります。上映する劇場があまりにも少なすぎるのが難点ですが,首尾よく公開直後に鑑賞出来たのは僥倖でありました。

 『ファイブスター物語』同様にSF的な要素は垣間見えるものの,やはりこれはおとぎ話というのが一番相応しいのでありましょう。惑星連合管理下にある茜の大地カーマインを舞台に詩女ベリンとドナウ帝国第三皇子トリハロンの旅が描かれます。なお,表題となっている詩女とはカーマインの民をまとめる女性指導者であり,過去の詩女の記憶を受け継ぐ存在とされます。また,ゴティックメードとはハーモイド・エンジンなる永久機関を搭載した巨大人型兵器のこと。ファティマの存在こそ在りませんが,『ファイブスター物語』におけるモーターヘッドとほぼ同種の存在と見てもいいのでしょう。というよりも,この『花の詩女ゴティックメード』そのものが『ファイブスター物語』の一篇であると断じてもいいように思われます。唐突に破烈の人形が登場するのだもなあ。『ファイブスター物語』を読んでいない人には全く意味の分からない登場ではありましたが,そもそもこの作品を鑑賞しようと思う人で『ファイブスター物語』に触れていない人はほぼ皆無に等しいのでしょうから問題はないのかもしれません。そんなわけで徹頭徹尾『ファイブスター物語』に代表される永野護作品の雰囲気が漂っています。それが実に心地良い。物語としては王道を行くのですが,このカーマインを含む世界観こそが一番の見どころと言っても過言ではないように思われます。民俗,服飾といった文化から生態系に至るまで全ての異世界性が実に美しいのです。所謂ファンタジィにおいて一番重要なことは世界観であると信じる自分にとって今作で提示された世界観というものは極上のものでありました。70分という決して長くはない物語ではありますが,異世界を旅する感覚に存分に浸れたように思います。或いは独創性のある世界だからこそ物語は王道で在るべきだったのかもしれません。長大な叙事詩の導入部分にあたる物語として,是非ともベリンとトリハロンの人生を,惑星カーマインの行く末の詳細を知りたくなる,そんな作品でありました。

 主人公は詩女ベリンと皇子トリハロンのふたり。最初は反目し合っていたふたりが心を通わせる過程が素晴らしい。ベリンは清楚で大人しい女性の筈なのですが,時折見せる如何にも永野護的な意地の悪い表情が逆に魅力的です。結構強かな性格の持ち主でもあります。一方のトリハロンは超大な軍事国家ドナウ帝国から護衛として派遣された人物。遺伝子改造された戦闘人種ウォーキャスターと呼ばれる騎士でもあります。このウォーキャスターの一部が天を取る者としてヘッドライナーを自称するという設定は『ファイブスター物語』に連なる設定ですね。トリハロンこそが統一フィルモア帝国の初代皇帝であるという結末もたまらない。また,ベリンとトリハロンに付き従うアデムとボットバルトも存在感充分。特に折笠愛が声をあてるアデムの印象がかなり強い。作中ではベリンへの忠誠心こそ強かったものの終始驚き役に留まってしまっていたのが残念です。ボットバルトはトリハロンの副官にして参謀役。如何にも有能で篤実な武人ぶりが素晴らしく格好いい。声優が大塚明夫というのも渋いです。ベリンとトリハロンを襲撃するユーゴ・マウザー教授と彼に従う謎の女性の出番が少なかったのは勿体ないなあ。謎の女性は1500年後,3000年後に再び戻ってくるという台詞が興味深かった。『ファイブスター物語』に所縁の人物なのかしら。このあたりは今後検証したいと思います。また,トリハロンのゴティックメードであるカイゼリンの美しさは特筆もの。色彩が鮮やかに変化するロボットというのは新鮮ですね。戦争の道具としての兵器でありながら,一方でベリンをも美しいと感じさせるその存在感は魅力に満ちています。もう少しゴティックメードによる戦闘を見たかった気もするけれどね。まあ,それが主題ではないので仕方ありません。

 如何にも永野護という雰囲気に満ちた作品でした。少なくとも,永野護作品の愛好者であれば申し分のない出来と言えるのではないでしょうか。その意味では対象の明確な作品であります。個人的にはベリンとトリハロンの行く末が語られる結末が想像力を刺激してお気に入り。花の詩女と称えられるベリンとフィルモア帝国の皇帝となるトリハロン。方法論は違えども平和を齎すというふたりの想いを結実させたことに限りのない美しさを覚えます。折に触れて挿入される川村万梨阿の歌も実に効果的でした。少なくとも個人的には大満足の作品です。この作品に連なる物語もいつかは見たいですね。或いは『ファイブスター物語』本篇の中で触れる程度でもいいのだけれど。なお,エンディングで登場した人物たちには思わず頬が緩むものを感じました。たまりません。
posted by 森山 樹 at 18:21| Comment(1) | TrackBack(0) | 感想(映画館)
この記事へのコメント
はじめまして。
謎の女性は後にミラージュに入団するLDI20ですね。

デザインズや、スクールデザインズに設定が出てきます。
マウザーと一緒にMHの基礎を作ったストーイ・ワーナー博士でもあります。
Posted by Kyo at 2012年12月02日 18:44
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