2012年11月25日

リンカーン/秘密の書

〈2012年映画感想3本目〉
リンカーン/秘密の書
Abraham Lincoln: Vampire Hunter
2012年 アメリカ 105分
監督:ティムール・ベクマンベトフ
脚本:セス・グレアム=スミス
配給:20世紀フォックス
出演:ベンジャミン・ウォーカー,ドミニク・クーパー,アンソニー・マッキー,メアリー・エリザベス・ウィンステッド,ルーファス・シーウェル,マートン・チョーカシュ,ジミ・シンプソン,エリン・ワッソン,アラン・テュディック

 セス・グレアム=スミスの小説『ヴァンパイアハンター・リンカーン』を原作とするアクション映画。この映画の邦題はちょっと不満があります。外連味と魅力に溢れた原題を変える必要性を全く感じないのですよね。寧ろ,陳腐過ぎてつまらない感じさえします。個人的には原題を意識した上での邦訳は好みなのですが,安易に邦題をつけるくらいなら原題を直訳もしくは原題そのままでいいように思います。少なくともこの作品に関しては原題の方が遙かに引きつけられるように思えてなりません。

 アメリカ史の裏で繰り広げられていたヴァンパイアとそれを狩るものたちとの死闘を描いた作品です。一見,ある種の馬鹿映画にも思われますが,内容としては頗る真面目に作られております。基本的には主人公である後のアメリカ大統領エイブラハム・リンカーンの生涯を通してのヴァンパイアとの戦いが綴られます。当時のアメリカ社会に蔓延する病理であった奴隷制度を物語に上手く絡めている点も面白い。奴隷制度そのものがヴァンパイアの食料調達の手段というのが素敵です。リンカーンの奴隷解放宣言は人類のヴァンパイアからの解放を高らかに告げるものでもあったと解釈されています。このあたりは歴史の徒の端くれとしても実に楽しめました。また,単にリンカーンとヴァンパイアの戦いに留まらず,師匠や親友,恋人との関係も織り込まれているのが素晴らしい。特に師匠であるヘンリー・スタージスとの複雑な関わりは物語の中心に位置すると言っても良いでしょう。彼の正体についてはかなり早い段階で想像は付くのですけれどね。リンカーンと戦うことになるヴァンパイアの首領アダムの悪辣極まりない巨悪ぶりも格好いい。アダムに従う美女ヴァドマやリンカーンの母親の仇である冷血な奴隷商人ジャック・バーツなど悪役の魅力も個人的には楽しめました。彼らヴァンパイアと対峙するリンカーンの得物が斧というのもかなり好み。この時代のアメリカはまだまだ開拓時代の真っ只中なので斧というのはごく自然な選択なのですよね。また,リンカーンその人も斧を得意としていたという逸話が残っています。この斧を銃剣みたくマスケット銃を仕込むという発想も楽しいです。というか,斧という無骨な武器を使いながらの華麗なアクションは素敵過ぎます。物語も演出もかなり自分好みの作品でありました。欲を言えば,もう少し馬鹿映画であって欲しかったなとは思いますけれど,それは好みの問題でありましょう。娯楽に徹した過不足なく楽しめる作品に思えます。

 リンカーンを演じるのはベンジャミン・ウォーカー。リンカーンその人に似ているかどうかは微妙。役柄としては表の政治家としての側面は印象通りに,裏のヴァンパイア・ハンターとしての側面は外連味溢れた描かれ方でした。物語で描かれる幼年期,青年期,壮年期の中では壮年期の姿が一番好きかなあ。ヴァンパイア・ハンターとしてではなく,政治家として,ヴァンパイアの手から人類を解放すべく戦うことを決意する場面と一度は封印した斧を箱の中から取り出す場面は特に印象的ですね。アダムとの最後の決戦となる汽車上での戦いも二転三転して楽しかったなあ。リンカーンを導く師匠のヘンリー役はドミニク・クーパー。人類に味方するヴァンパイアという役どころとなります。ある意味ではもう一人の主役と言っても過言ではありません。リンカーンの岐路に常に影響を与え続けた人物と言えるでしょう。リンカーンの恋人であり妻となるメアリー・トッドを演じるのはメアリー・エリザベス・ウィンステッド。特に最終局面での意外な活躍が印象に残ります。南北戦争勝利の陰の立役者だものなあ。また,リンカーンに従う幼き日からの友人ウィル・ジョンソンと智略と胆力に長けたジョシュア・スピードもいい役ですね。一方でリンカーンに対峙するヴァンパイアの首領アダムを演じるはルーファス・シーウェル。ローマ帝国時代から生き続ける巨悪としての存在感は抜群。アダムに忠実に従う美女ヴァドマ役はエリン・ワッソン。その邪悪な美しさに心惹かれて止みません。リンカーンの母の仇であるジャック・バーツを含めて,いずれも純粋な悪であることが返って魅力的であると言えます。そしてだからこそ本質的に邪悪なヴァンパイアの中で善の性質を持つヘンリーの異質さが目立つのです。人間でもなくヴァンパイアにもなれないヘンリーの存在に悲哀を感じざるを得ません。

 当初の馬鹿映画という期待とは異なりましたが,歴史を題材とした華麗なアクション映画として存分に楽しむことが出来ました。リンカーン大統領の細かな逸話を知っていれば,なお楽しめることでしょう。若干不満があるとするならば,リンカーンが自在に操った斧の扱いくらいかなあ。アダムによって叩き折られるのは仕方がないにしても,例えばヘンリーにより回収されて後の大統領に受け継がれる武器という扱いにすれば,物語の継続性が生まれたと思うのですよね。特に最後の場面で現職大統領っぽい人物を出すのであれば。まあ,それは個人的な趣味の範疇ではあります。全体として素直に楽しめる素敵な娯楽映画だったと思います。突き抜けたものがなかったのは残念ですが,それは贅沢というものかもしれません。
posted by 森山 樹 at 22:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想(映画館)
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